破傷風について
破傷風菌は土壌や動物の糞便中に存在する嫌気性細菌で傷口から侵入し、傷が閉鎖性となり嫌気状態になると増殖します。発育・増殖に伴い産生された毒素は、神経細胞に入り、破傷風毒素による特有の硬直性麻痺をおこすことが知られています。
日本では1952年に破傷風トキソイドが導入されたのち、1968年にDP(ジフテリア・百日せきワクチン)に破傷風トキソイド(TT)が加えられたDPTの定期予防接種が始まり、患者数は劇的に減少しました。2008年以降、毎年日本では100名を超える患者が報告され、治療の甲斐もなく4-14名が命をおとしています。熊本県でも2000年から2019年の20年間に54件の報告がありました。
特に破傷風患者の90%は中高年齢者です。中高年齢者は予防接種を受けていないか、受けていても抗体価が下がり、発症予防効果が弱まっている可能性があります。予防接種が広まる以前に生まれて、予防接種を受けていない昭和42年より前に生まれた50歳代以上の人、また、近年増えている地震や水害など大規模災害により土壌に接触する機会の多い被災者や災害ボランティアも注意が必要です。破傷風は予防接種をしていれば、病気から免れることができため予防接種を受けることをおすすめします。
破傷風の治療には抗毒素療法が有効であることが、日本の科学者である北里柴三郎、野口英雄らの研究で明らかとなっていました。1910年代には破傷風トキソイドで免疫した馬の血液から製造した抗破傷風馬免疫グロブリンが使用されていましたが、馬血清由来であるために人に投与したときに異種タンパクによる血清病やアナフィラキシーの恐れがありました。1960年代には、このリスクを避けるため抗破傷風抗体陽性のヒト血漿から作られた抗破傷風人免疫グロブリン(TIG)が開発されました。これは、海外でも広く使われている治療薬です。このTIGは血液中に遊離している破傷風毒素を中和する抗体が含まれます。このTIGの原料であるヒト血漿は、国内では100%が海外からの輸入に頼っていること、また、人由来であることから未知の感染症の危険性は避けられないことなどの欠点があります。がん患者や関節リウマチ患者の治療用にはヒト抗体製剤が開発されて効果をあげています。現在、新型コロナ感染患者への治療用ヒト抗体製剤の開発が進み、治療が開始されています。
当講座では破傷風患者の治療用に人の血漿を原料としない製品つくりとして、トキソイド免疫後のヒトまたは動物のリンパ球を用いたヒト型(化)抗体医薬品の開発の開発を進めております。