研究内容 研究内容

毒素産生性細菌の基礎及び応用研究

熊本県内の土壌からの破傷風菌の分離
-毒素活性、細菌学的、免疫学的、および遺伝子学的な比較-

 

本講座では、熊本県内でも年間の患者報告のある破傷風と、熊本の近隣県で報告のあるジフテリア様の感染者報告のあるコリネバクテリウム ウルセランス感染症の疫学研究を進めています。

 

 

【コリネバクテリウム ウルセランス菌のおこすジフテリア様疾患について】

ジフテリアは国内では極めて稀な病気であり、真性患者の報告はこの数十年ありません。しかし、東南アジア、アフリカでは、まだまだ散発しており、近年の海外渡航者の増加に伴い、海外からの観光客の持ち込み感染には気を緩めることのできない病気です。

 

国内では「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」により、現在では 急性灰白髄炎(ポリオ)、結核、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ(H5N1)と共に「二類感染症」に位置付けられています。二類感染性は感染力と罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点から見た危険性の程度に応じた分類により、患者発生時には入院することや、患者周辺の消毒等の措置が求められており、保健所を含む自治体行政部署では臨時の多くの対応が迫られます。一方、米国では1980­1995年間に41例が報告され、さらに発症した患者から分離したジフテリア菌のDNAパターンは30年前の流行株と同一であり、流行地区では菌が長期間存在することが明らかになっています。

近年国内外では、ジフテリア症をおこすジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)とは異なり、 Corynebacterium ulcerans (ウルセランス菌)が愛玩動物等を介してヒトに感染し重篤化することが問題視されています。国内では2001年に最初のウルセランス菌のヒト感染報告以降、今日までに30例以上の感染報告があり、なかには死亡例も報告されています。患者の周辺環境の追跡調査ではウルセランス菌の感染の疑いのあるイヌ、ネコ(風邪様症状を呈する、またはジフテリア毒素抗体を有する)が確認されています。現在までにヒトーヒト間の感染は確認されてないために、ウルセランス菌によるジフテリア様患者が確認されても現在の感染症法では分類・位置づけがありません。これまでの患者発生状況により、厚生労働省 健康局結核感染症課長の通知として各都道府県衛生主管部長宛へ本症に対する周知と情報提供が求められています。

 

今日までの調査結果として、ジフテリア菌以外でジフテリア毒素を産生して人または動物に感染発症する菌としては、ジフテリア菌、ウルセランス菌、およびは、Corynebacteriumu pseudotuberculosis(シュードツベルクローディス菌)が挙げられています。これら3菌株の毒素は遺伝子学的に多少の違いがありますが、人の発症像には大きな違いがないとされています。毒素産生(毒素発現遺伝子)はバクテリオファージに依存しているために、自然界では毒素非産生株へ毒素遺伝子を有するバクテリオファージが感染することで、毒素産生能を獲得すると考えられています。欧米では、患者から毒素産生性の上記3株が分離された場合の治療方法および患者周辺の公衆衛生上の措置は、ジフテリア菌による感染患者の対応策をとることが求められています。

 

過去には大分県、熊本県で下記のような調査研究がおこなわれ、患者発生後の周辺環境の追跡調査が適切に実施されていることで感染症の対策に活用されています。

 

・平成17年に大分県在住の男性は、肺に多発性空洞病変が観察され、咳、痰、発熱等の症状を呈した。適切な治療に寛解した。なお、患者は12匹の猫を飼育していました。

・感染研の研究班の調査では、大分県、熊本県の猟犬の血清学的な調査で、87匹のうち13匹でジフテリア抗毒素抗体が陽性でした。また、同居の抗体陰性の1匹からは毒素産生性ウルセランス菌が分離されました。過去にジフテリア毒素を産生する菌に感染したことが強く疑われるとともに、猟犬の集団内では菌が伝播しているようです。

・大分県衛生環境研究所の調査で、県内動物愛護センターの92匹の犬・猫のうち、5匹の犬からウルセランス菌が検出されました。

 

調査研究には科学的な根拠の報告も重要です。ウルセランス菌の簡易生化学的キットであるApiコリネキットは、色調の判断は微妙であり、糖分解能試験の一つの項目では、陰性の場合はシュードツベルクローディス菌となり、陽性の場合はウルセランス菌の可能性が高い判定となります。いずれの菌の場合も毒素産生能試験を実施することになりますが、菌名の決定にはApiコリネとは異なる試験が必要になっています。

 

当講座では、上記3菌株の熊本周辺の生活環境での蔓延の程度を知る目的で、数か所の病院との共同研究として調査を開始しております。さらに、迅速に診断できるキットの開発を行っています。

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