研究内容 研究内容

蛇毒抗毒素の製造と品質管理および問題点

血清療法(ヤマカガシ抗毒素の製造と品質管理)

 

国内の有毒蛇は、ハブとマムシが知られており、毒素に含まれる実験動物を用いた生物活性試験ではマウスの致死作用、ウサギ皮内の出血作用が確認されています。ハブとマムシの咬傷患者に対する治療薬として、国内ではウマ抗毒素製剤が1950年代に開発され、現在もKMバイオロジクスで製造販売されています。近年 ヤマカガシ咬傷後にDIC様(播種性血管内凝固症候群)の症状を呈して重篤な場合は死に至る例が報告されています。ヤマカガシ毒素には、マウスの致死作用とともに試験菅内試験法では血液凝固作用が明らかとなっています。

 

ハブとマムシの2製品はKMバイオロジクスが薬事法の製造販売承認を得て製造している治療用の医薬品です。しかし、ヤマカガシ抗毒素は国の研究補助金を申請して緊急避難的に試作製造したもので一般的な医薬品とは異なります。患者がヤマカガシに咬まれて臨床的に重症化が確認された場合の救命措置として、診察している医師と国の研究班に属する医師が投与の必要性を判断した場合に使われる仕組みとなっています。

 

ハブは沖縄県と鹿児島県(奄美大島等)に生息しており、各年の捕獲数、患者投与記録等の情報が提供されています。

 

https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/hoken/eiken/eisei/habunohigai2.html

http://www.pref.kagoshima.jp/kenko-fukushi/yakuji-eisei/habu/index.html

 

マムシは全国的に咬傷発生がありますが、年間の咬傷患者数、患者情報、抗毒素の投与事例についての一元的な統計報告等はありません。全国の年間の咬傷事例は数百例に及ぶと推定されますが、患者の重篤性や抗毒素治療が行われたかは不明です。さらに、抗毒素治療の必要性は50年前から現在まで学会や医師会等で議論されていますが、抗毒素製品の供給を停止する根拠は示されていません。最近のまむし咬傷の情報は学会報告等で入手できますが、参考までにご覧ください。

 

・マムシ咬傷67例の検討 日農医誌 2019 吉峯ら

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/68/4/68_468/_pdf

 

・当院におけるマムシ咬傷18例の検討 函医誌 2018

https://core.ac.uk/download/pdf/233921322.pdf

 

・マムシ咬症における抗毒素の早期投与と在院日数との関連 ―46症例の解析― 中毒研究 2017 野田

http://jsct-web.umin.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/30_1_25.pdf

 

・CPK 増加速度はマムシ咬傷重症度予測に有用である ~地域での研究のススメ~ 2014 自治医科大 newsletter

https://www.jichi.ac.jp/openlab/newsletter/letter86.pdf

 

・全国調査によるマムシ咬傷の検討 日臨救医誌 2014 瀧ら

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsem/17/6/17_753/_pdf

 

東南アジア、中米、アフリカ諸国では、多くの毒蛇による咬傷事例が発生しており、多様な毒素成分による重篤例も問題となっており、患者は身体の後遺症により社会復帰することが困難な場合がおおいことが報告されています。

 

また、患者治療に際して安全性と有効性を保証できない製品が海外ではでまわっている情報もあります。WHOでは蛇毒抗毒素製剤の製造と品質管理については、製造所とともに国家管理機関であるNCL(National Control Laboratories)、国家規制当局であるNRA(National Regulatory Authority)の責務・役割を具体的に示したガイドライン(GL)を発出しています。

 

さらに、国際的な供給体制を整えるためにワクチン製造所に対して製造所が製造する製品の事前承認制度(Prequalification)の導入も検討しています。第一段階として2019年11月に蛇毒免疫グロブリンの事前資格認定に関するワークショップを開催しました。ワークショップの全体的な目的は、規制当局および製造業者に重要な情報を提供し、評価に必要なすべての情報を含む提出書類作成の方法を示しました。またNRAおよびNCLには、抗毒素の評価に関する責任の概要を明らかにし、評価する能力を強化するための課題と戦略を示しています。

 

講座ではWHO-GLで推奨する項目を現行の国内の製造と品質管理方法と比較・精査し、国際調和を念頭に品質管理法の改良、改善を実施しています。

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